一棟マンション買って大失敗 最終話
一棟マンションを購入して1年8ヶ月後。
懸案だったマンションは、ついに売却完了した。
すぐさま、私、私の両親、妻の両親、妻側弁護士と話合いをすることになりました。
妻側には、無事に一棟マンションが売却できたことを伝えました。
ただ、5,000万円もの借金が残ったことも伝えました。
だが、5,000万円など手元にはありません。
一度、自己破産して、借金を無くしてしまいたい。
そして、人生をゼロカらやり直したい。
そのため、『私は自己破産する予定だ』と言いました。
しかし、妻の両親が、私の自己破産に大反対しました
その理由は、妻が連帯保証人だからでした。
残った5,000万円の借金は、私だけのものではないのです。
妻も、私と同等の責任が残っている状態なのです。
もし私が自己破産すると、債権回収会社は妻に請求します。
妻は、5,000万円を返済する義務があるからです。
すると、妻も自己破産か、5,000万円の返さなければならないのです。
しかし、妻はまだ30代でした。
妻の両親は、今後の再婚の可能性を考えると、自己破産歴も残すわけにはいかないとの主張でした。
かといって、妻も5,000万円ものお金は持ってません。
私はこの時、『再婚の可能性って何ですか?』と聞き返しました。
すると、『あなたと離婚成立してからの話です』と堂々と言われました。
私は、『やっぱり戻ってこないんだな…』と心の中で思いました。
妻とは、もう1年近く会ってません。
子どもを連れて家を出てから、弁護士経由でしか連絡が取れません。
そんな妻が離婚を考えているのは、簡単に想像がつきました。
妻は離婚を決意したから、家を出て行ったのでしょうから。
妻には辛い思いをさせてしまった。
妻は、
私との幸せな家庭を作って、
子どもを授かり、
ただ幸せに暮らしていただけだ。
だが、私の欲のせいで一棟マンションを買ってしまった。
不動産投資の経験も無いのに、いきなり1億円の物件を買ったのだ。
そして、欲に駆られた私のに促され、連帯保証人になってしまった。
その後は、すごい勢いで坂を転げ落ちていった。
数十万円、数百万円というお金が、どんどん溶けていった。
それでも、妻は最後まで支えて暮れようとしていた。
雨漏り工事の後、独身時代の100万円を綿てくれた。
ねぎらいの言葉も、かけてくれた。
だが、私は経営を立て直すことはできなかった。
入居が決まらないばかりか、不動産取得税の請求で貯金の底が見えた。
妻の立場に立って考えると、
そんな家庭を逃げ出したくなるのは当然だ。
私がどれだけ離婚に反対しても無駄だろう。
家出した時点で、妻にはもう気持ちが残っていないのだ。
気持ちがあって、初めて夫婦の共同生活は成り立つ。
いまさら・・・どうしようもない。
もう、過去には戻れない。
だが、5,000万円もの借金をどうやって返す?
毎月10万円でも、500ヶ月かかる。約42年だぞ。
利息を考えると、50年とか60年かかる。
妻の両親は、『自己破産などせず責任もって返せ』と言う。
『自分の失敗の借金は、自分できちんと返せ』とも言う。
さらに、妻の父親がトドメとなる言葉を放ちました。
妻の父親は、『自己破産などしたら、一生子どもに会わせないからな!』と怒鳴りました。
その時の表情は、相当の恨みが詰まっていました。
その言葉を聞いた瞬間、今まで黙っていた私の父親が口を開きました。
私の父親は、『私の退職金と貯金を差し出す』と言いました。
また、『家も売る』とも言いました。
息子である私の借金を、全財産で埋め合わすと言ったのです。
私の父親は、声を震わしながら話しました。
私の母は、横で黙って聞いていました。
私はその瞬間、
自分がとんでもない事をした、
と改めて感じました。
私の両親は、孫である私の子どもに会うのをいつも楽しみにしてました。
毎年正月は、孫のために美味しい料理を用意していました。
そのため、妻が子どもと一緒に家出したことを両親に伝えたときは、私以上にうろたえていました。
妻が家出してから、妻にも子どもにも会えませんでした。
電話も写真も、全く連絡とれませんでした。
子どもに会えない日々は、私にとって辛いものでした。
そして、私の両親にとっても辛いものでした。
そんな私の両親からすると、
妻の父親の『子どもに会わせない』という発言は死刑宣告の様なものです。
ただ、もし全財産を返済に回すと、
私の両親はどうやって生きていくのか。
年金だけで暮らしていくとしたら、
相当切り詰めなければ生活などできません。
私は、両親にその真意を問いただしました。
勢いで言っているなら、取り消すべきだと思いました。
ただ、私の両親の決意は固かったのです。
しかも、妻側との話合いの前には、既に覚悟を決めていたというのです。
それに、私の両親は、
家やお金という資産にあまり価値を置いていませんでした。
それより、子どもや孫とのつながりなど、
お金で得られないものに価値を置いている様でした。
その気持ちは、当然息子の私に対しても同じでした。
例え巣立ったとはいえ、息子は息子。
息子が他人に与えた損害は、親として見過ごすわけにはいかなかった様です。
妻の両親はその言葉を聞いた後、少し返答に詰まってました。
まさか、私の両親が全財産を投げ出すなど、思ってなかったのでしょう。
ただ、少しの熟考の後、私の両親の申し出を承諾しました。
私の両親への同情の気持ちはあるものの、
やはり優先すべきは自分の娘の人生です。
妻の両親による『娘を守らなければ』という考えは、
何事にも優先しなければならないことだったのです。
その後、私と妻の離婚の話に移りました。
相手の弁護士は、離婚以外ありえないという主張でした。
私は離婚したくは無いのが本音でした。
ただ、家庭を壊した原因は私に有るので、離婚に合意せざるを得ませんでした。
その他にも、離婚条件について妻側弁護士と話し合いました。
離婚条件は、ほぼ妻側弁護士の言う条件を受け入れました。
妻との離婚条件
・養育費は毎月5万円
・面会交流は3ヶ月に1回
・財産分与と慰謝料は無し
世間では、離婚の話し合いは大変だと言います。
しかし、私の場合は、すでに別居しており離婚が既成事実となってました。
また、離婚原因が私の不動産投資の失敗という明確な原因もありました。
さらに、揉める要因となるお金がありませんでした。
そのため、離婚合意や離婚条件はすんなりと決まりました。
そして、その日のうちに私と妻の離婚は成立しました。
一棟マンションを買ってからちょうど600日後、
長年連れ添った妻との離婚が成立しました。
私は、私自身の欲の暴走で、
大切な女性の人生を台無しにしてしまったのでした。
一棟マンション購入して2年後。
私の両親の家の売却が完了し、
両親は賃貸アパートに引っ越しました。
実家は、父親が30歳の時に建て、ローンも払い終えていました。
今後はリフォームしながら、終の棲家になる予定でした。
しかし、私の一棟マンションの失敗の借金のために、
家を売ることになってしまいました。
さらに、退職金などの貯金も取り崩しました。
これで、生活費は、今後入ってくる年金だけになります。
ただ、この時点で用意できたのは4,000万円。
私の背負った借金5,0000万円には、1,000万円及びませんでした。
私と私の両親は、(離婚済みの)妻の両親に再度会いに行きました。
そして、私は頭を下げて言いました。
私
返済のために1,000万円を貸してください。
私が債務者、両親が連帯保証人になります。
どうかお願いします。
元妻の両親は、『返済用の1,000万円は用意する』と言いました。
残値1,000万円さえ返済すれば、元妻の連帯保証は無くなるのです。
ただ、私に必ず払わせようという気概は見えました。
そして、私の弟も連帯保証人になるよう要求してきたのです。
だが、これは私が断固として断りました。
今回の件は、私の問題です。
既に家庭を築いて平穏に暮らしている弟に、負担を掛けるわけにはいきません。
1時間にも及ぶ話し合いの末、なんとか1,000万円を借りる話がまとまりました。
1,000万円の借入条件
・毎月8万円×125ヶ月(約10ヶ月半)
・利息は無し
・債務者は私
・連帯保証人は私の両親
こうして、銀行から借りていた借金5,000万円は、全てキレイになりました。
私は自己破産することなく債権回収機構に返済しました。
同時に、元妻が負っていた連帯保証はなくなりなりました。
ただ、これで終わりではありません。
私は、元妻の両親に1,0000万円の借金が残ってました。
10年半にも及ぶ、借金返済生活が始まりました。
しかも、借金返済8万円とは別に、養育費5万円も払わなければなりません。
毎月13万円ものお金を、10年以上払い続けるのです。
この時の私にとって、毎月13万円の支払いは大変です。
既に上場企業を辞め、零細企業に再就職していました。
年収は半分程度まで下がり、
福利厚生などほとんどありません。
上場企業なら毎月13万円は余裕を持って払えていたでしょう。
しかし零細企業のサラリーマンとなっていた私は、毎月の手取りの半分を持っていかれて相当キツかったです。
だが、これは私のザンゲの道です。
私の欲をかいた行動で、多くの人の人生を狂わしたのです。
元妻、子ども、そして、私の両親の人生までを、大きく狂わしてしまったのです。
そう考えれば、毎月13万円の支払いは私の責務です。
これで全てを償えることではありませんが、
自らの過ちを忘れないために課せられた義務なのです。
私は、周りの人に迷惑を掛けながら生き延びてしまってました。
私は、周りの人々へ謝罪の気持ちを込めて毎月13万円を振り込んでいました。
それからというもの、
毎日質素で倹約生活を心がけてきました。
あと一杯お酒が飲みたくても我慢し、
おかずも一品減らすなど我慢していました。
散髪さえも、できるだけ行く回数を減らしました。
買い物や娯楽など、もってのほかです。
朝から晩まで仕事をして、
それ以外の時間は質素倹約に努める。
倒れないように日々健康に気を使い、
多少の風邪なら無理してでも仕事に行く。
全く自由の無い生活を送っていました。
下界にいながら、
仏の様な生活を送っていたのです。
一棟マンション(売却済み)を購入して12年後。
つい先日の日曜日、
私はJR品川駅近くの定食屋で息子と食事をしていました。
実は、息子とは数年前からちょくちょく会うようになっていました。
妻との離婚直後は、息子はまだ中学生くらいで精神的に不安定でした。
ただ、大学生になった頃には事情も全て理解しており、
その上で、一人の大人として会って話す関係になっていました。
その日は私が毎月13万円を支払う最後の月でした。
息子は、『お父さん、お疲れ様』という手紙を書いていてくれました。
私にとって借金完済は、ある意味感慨深いものがありました。
その後は、息子の近況を聞きました。
息子は、もうすぐ大学卒業を迎えます。
息子にどんな会社に就職するのか聞いてみました。
息子は、不動産会社に就職するとのことでした。
しかも、賃貸仲介営業を希望しているそうだ。
私は、とたんに12年前のことを思い出しました。
普通のサラリーマン生活を送っていた私は、
身の丈に合わない1億2,000万円もの一棟マンションを購入してしまった。
それがきっかけとなり、多く人に迷惑をかけた。
もちろん、息子にも迷惑をかけた。
学校では、父親がいないことでイジめられたりもしたらしい。
宿題を見てもらえなかったり、キャッチボールができないなど、寂しい思いもしたらしい。
もちろん、私が不動産投資に失敗したことは、息子にも説明はしていました。
そんなな息子は、なぜ不動産業界を選んだのだ?
お前の両親が離婚したのは、一棟マンションという不動産なのだぞ。
その時は、息子は何も答えませんでした。
ただ翌週に、息子から手紙が送られてきました。
息子からの手紙
お父さんの不動産投資の失敗で、俺も母もツラい目に合いました。
何度も泣いたのは事実だし、今でも覚えています。
だが、不動産が悪いわけではないと思います。
お父さんが一棟マンションで失敗したのは知っています。
けど、リフォームで部屋をとてもキレイにしていたのも知っています。
お父さんが不幸だったのは、仲介不動産屋がキレイな部屋を知らなかったからだと思います。
お父さんの営業活動が不足していたのも原因だけど、
あんなにキレイな部屋の存在を知らなかった不動産業界も悪いです。
内見者を連れてきたら、入居者は絶対喜びそうな部屋でしょう。
あんなにキレイな部屋が放置状態なのは、みなにとって不幸です。
だから僕は賃貸仲介の仕事を通して、
『皆が気付いていないキレイな部屋を、入居者に紹介しよう』
と思いました。
大家さんが部屋をキレイにすれば、僕が積極的に入居者を案内する。
入居者はキレイな部屋に住めてハッピーだし、大家も空室が早く埋まってハッピー。
大家さんは、その次の募集時も部屋をキレイにリフォームする。
そうすれば、町中の部屋がキレイになっていく。
お父さん、なかなか良い考えだと思いませんか?
私は、息子の手紙を読んで、
目頭が熱くなりました。
私の不動産投資の失敗で、息子は不動産に良い印象があるはずがない。
しかし、息子は、過去をしっかり見つめて、しっかり考えたんだ。
その上で、自分なりに不動産業界にどう貢献できるかを考えたのです。
『入居者を連れていく』だけではなく、
『キレイな部屋を優先的に案内することで、入居者も大家もみなが満足する』という発想に辿りついたのです。
自分の父親が失敗した不動産業界に就職するなんて、なかなかできることではないはずです。
しかも、自分なりにどう貢献できるかを考えるなんて。
私は、40歳で一棟マンションを買って人生失敗した。
だが、息子は22歳で不動産業界のために頑張ろうとしています。
父親として、これ以上にうれしいことがありますでしょうか!?
私は、
自分の息子を、
改めて誇りに思いました。
これから不動産投資をしようと思っている人に伝えたいことがあります。
まず、不動産投資は素晴らしい資産運用です。
家賃収入は安定的に入り続け、
他人の払う家賃であなたの資産は増え続けるのです。
土地や家賃の変動は限定的で、
普段の大家としての仕事はほとんどない。
実際、不動産投資で資産を気づいた人は大勢います。
今まさに築いている人も大勢います。
しかし、金額が大きいために、
間違った方法を取ると、
わたしの様に一気に破綻に向かってしまいます。
私は、初心者の時に、無理して一棟マンションを買ってしまいました。
まだよく分かってない段階で、1億円以上の物件を買ってしまったのです。
確かに、一棟モノは家賃収入の高さが魅力です。
ただ、安定経営するためには、高度な知識・経験・財政力があるから必要です。
初心者が、順調に経営していける程、一棟モノは決して甘くはありません。
初心者が賃貸需要のある物件を選ぶことが難しいです。
そもそも、良い物件が初心者にまわってくることなどありません。
ほとんどの人が、薦められるがままダメ物件を買ってしまいます。
また、トラブルなどが起こった時に、対応する方法など知りません。
一棟マンションだと500万~1,000万円もの修繕が必要な事もあります。
初心者だと、大規模な修繕の必要性を事前には判断できません。
突発的な費用を払えず、身動きできない状態になる人もいます。
一棟マンションやアパートは、
失敗したらリカバリーがとても大変です。
1億円の借金は、
一発で人生を破壊するエネルギーがあります。
私の様に、数千万円の借金が残り、
10年以上かけて返している人も大勢いるのです。
では、初心者は何から始めれば良いのか?
まずは少額な物件から始めるようにしましょう。
都心の中古ワンルームマンションなら、500~1,800万円程度で買えます。
しかも、都心なら空室に悩むことは、まずありません。
確かに、家賃収入は多くはありません。
1部屋買っても、年間家賃収入は100万円程度でしょう。
しかし、あなたは大きな経験値を得ることになります。
物件選定、売買契約、融資審査・契約、決済・引渡、管理会社選び、リフォーム、空室募集、トラブル対応など、不動産の賃貸経営を一通り経験できます。
賃料と広さの相場感覚、間取りの特性、地域別の特性、リフォームやトラブルの対応方法やリカバリー費用の概算、そして、その他の100を超える細かい気付きや経験があります。
実際に賃貸経営をすることで、数えきれないほどの経験を得られます。
不動産投資を始める前の時点と比べて、全く違う世界が見えてきます。
中古ワンルームマンションで賃貸経営を一通り経験すれば、あなたは不動産投資家として大きくレベルアップします。
一棟マンションや一棟アパートは、十分にレベルアップをしてからです。
十分にレベルが高ければ、物件選びの段階から失敗を避けられます。
保有中も、適切な対応を行うことができるのです。
初心者が一棟アパート・一棟マンションを買うなんて、
免許取りたての18歳が、フェラーリで時速300キロ出して運転する様なものです。
事故を起こすのが目に見えますし、
簡単な事故で済むはずがありません。
まずは教習所に通って運転方法を学ぶべきです。
その後、マーチかプリウスで時速40キロから始めるべきです。
不動産投資は『小さく始めて、徐々に大きく』が王道です。
初めに、しっかり勉強し、中古ワンルームで体験することで、その後に大きく成長することができるのです。
最初に焦って一棟モノを買うと、だいたいが足踏みします。
資産は思うように増えずに、モヤモヤとした状態が続きます。
不動産投資で成功した人ほど、基礎を大切にしています。
そして、しっかり基礎を固めた後、一気に規模拡大したのです。
※
最期に、これから不動産投資始めようとするあなたに質問です。
あなたは、それでも一棟マンションを買いますか?
小さい金額で始めて、確実に資産規模を大きくしていく方法を選びますか?
どうしても一棟マンションを買いたい人は、
せめて一棟モノに特化したセミナーでしっかり勉強してください。
実例を含めた説明を聞くことで、少しでもリスクは抑えられるはずです。
徐々に確実に資産規模を大きくしていく方法を選ぶ人は、都心の中古ワンルームマンションを検討してみてはどうでしょうか?
安定運用しながら、経験と資産を確実に増やしていくことができます。
どちらにせよ、
これから不動産投資を始める人は、
私みたいな失敗はしないことを願ってます。
(一棟マンション買って大失敗 完)