第4号アパート購入秘話 第1話
前回の購入から約3年。
保有の3棟の中古アパート経営は順調だ。
3棟目のアパート購入でほぼ貯金が尽きて何も買えなかった。
だが、3年経ってやっとまとまったお金が貯まってきた。
貯金が貯まってくると、物件を買いたい気持ちも高まってくる。
不動産投資家としての悪いクセだ。
相変わらず、仕事中でも不動産のことを考えてしまう。
起きているときは常にアパートのことを考えている。
順調だし我慢する必要などない。
よし、次のアパートを探そう!
投資用不動産のサイトは、毎日朝昼晩とチェック。
業者から送られてくる物件情報も、全て目を通す。
どんなに疲れていても、
どんなに眠い時でも、
投資用不動産の販売図面を見ると興奮する。
目にする物件の99%は買ってはいけない物件だ。
だが、それでもお宝を探して日々サイトを徘徊し続ける。
不動産投資を始めて4年程建っていたが、俺は根っからの不動産投資家になってしまった。
この2017年、世は中古アパート投資全盛期を迎えていた。
楽待のアンケートでは、中古アパートが一番人気だ。
一度にまとまった家賃収入が得られるということで、高属性サラリーマンが押し寄せてきている。
サラリーマン客の匂いを嗅ぎつけて、投資用不動産会社やサンタメ業者も相次いで参入。
それらを金銭面で後押しする、スルガ、静岡銀行、西武信金、三井住友トラストなどの金融機関も積極攻勢。
買いたい欲と、稼ぎたい欲と、貸したいノルマが合わさって、中古アパート投資はどんどん熱を帯びていっていた。
そして、加熱とともに利回りは急低下していった。
一都三県で、もはや10%を超える物件などない。
好立地の物件も、ほとんど見かけなくなった。
ターミナル駅などの賃貸物件は、そもそも売りに出てこない。
今までは、たまにサイトに掲載されている様な良い物件は、もはや皆無だ。
なぜ、良い売り物件が無くなった?
こんなにパタっと見なくなるもの不思議なものだ。
売主がさらなる値上がりを待っているのか?
それもあるだろうが、こんなに無くなるのは理解できない。
俺が今まで買ってきたのは、相続を受けたおばあさんや資産整理のおじいさんだ。
急に相続案件が減るなんて、通常では考えられない。
となると、誰から上流で買っているからか?
不動産会社?転売業者?セミプロ級の投資家?富裕層?
俺みたいなサラリーマン投資家には、今のような状況下では極上物件は流れてこないのか。
中古アパート専門業者が全て買い取って、金持っている人だけで分け合っているのだろうか。
だが、俺も色んな業者との接点はある。
物件情報もメールで流れてきたりする。
だが、いくらサイトからもメールからも、超好立地の物件はほぼ無い。
同時に、微妙な立地の築30年のアパートなどが、7%とかで売られている。
これが、過熱状態というものなのか。
だが、セミリタイアするためには、この厳しい環境でも物件探しは続けなければならない。
毎日、毎日物件探し。
サイトやメールは、欠かさず目を通す。
ほとんどはダメ物件だ。
だが、ここで諦めては一生買えないままだ。
そんなある朝、通勤電車の中で楽待サイトで物件を探していた。
すると、ある物件が目に止まった。
売りアパートの販売条件
一棟中古アパート
所在地 | 千葉県 |
---|---|
大きな駅徒歩 | 10分以内 |
構造 | 木造アパ-ト |
築年数 | 25年 |
販売価格 | 3,700万円 |
満室家賃 | 326万円 |
利回り | 8.8% |
積算価格 | 2,200万円 |
※積算は相続税路線価ベース
おおぉ!
これは良いアパートだ!
今の私は、良い物件かどうかは販売図面を3秒も見れば分かる。
俺はその物件を見た瞬間、良い物件だと分かった。
楽待にこんな良い物件が掲載されるなんて。
朝で眠かったこともあり、見逃すところだった。
朝7時台の地下鉄丸の内線内で、
俺は大声で叫びそうになってしまった。
大変危なかった。
一気に目が覚めてしまった。
久々の当たり物件だ。
電車に揺られながら、この物件について分析を行った。
まずは、立地について。
最寄り駅はJRで乗車人員3万人ほどの中規模駅。
これだけでも十分良いのだが、特筆すべき点が3つある。
立地ポイント
①ターミナル駅から徒歩15分
ターミナル駅徒歩圏内なので、最終的な出口としての選択肢は豊富。
②物件の近くには複数の施設がある
大規模な施設もあり、そこを生活拠点にする人の入居が期待できる。
③第1号アパートから徒歩10分
私の保有している第1号アパートから歩いて行ける距離にある。
この地域には土地勘があり、賃貸需要の高さは常日頃から感じている。
もはや最高の立地です。
次に、利回りはどうか。
この物件はワンルームが8部屋。
1部屋あたりだいたい約16m2ほど。
間取りは、バストイレが一緒。
典型的な狭めのワンルームのアパートだ。
保有する他のアパートと同じで、だいたい分かる。
ひとつ気になることがある。
このアパートは、洗濯機置場が室外なのだ。
このままでは入居希望者が、限られてしまう。
だが、もし洗濯機置場を室内に設置できれば、空室も埋まるし家賃も上げられる。
想定家賃が3.2万円ほどと記載あるが、これは改善の余地はある。
リフォームして、室内洗濯機置場を設置できれば、平均3.4万円は可能だ。
リフォーム後の実際の利回り・家賃収入を計算してみよう。
3.4万円×8部屋×12ヵ月だと、1年で326万円。
販売価格3,700万円なら、実際の表面利回りは8.8%。
指値が通って3,300万円なら、実際の表面利回りは約10%。
この立地で利回りが10%の物件はまずお目にかかれない!
1年ほど前、この近くで売りに出された利回り8%の築古アパートが一瞬で売れていた。
どのくらいのキャッシュフローになるか。
スルガ銀行で、3,000万円を期間25年・金利3.5%で借りたとしよう。
満室状態であれば毎月10万円のキャッシュフロー。
立地を考えると、空室に悩む事はなさそうだ。
満室経営は固そうだし、利益は固そうだ。
最後に、担保力はどうか。
築20年越えなので、建物の担保価値はゼロ。
土地価値はどうか。
路線価×地積は2,200万円。
これを0.8で割って出る実勢価格は2,800万円。
この価格では、販売価格3,700万円から900万円ほど乖離している。
利回り約10%となる3,300万円の指値が通れば、土地値との乖離は500万円ほどになる。
土地の形はキレイな正四角形。公道接道。
周辺に変な施設なども無し。
もちろん、田畑など全く見あたらない。
担保力もとても良い。
地下鉄丸の内線に乗りながらの分析の結果、私の重要視する『立地』『利回り』『担保力』は全て問題ない。
とても優秀なアパートだ。
正直これほどの条件の物件を見つけるのは、1年間に3件ほど。
ただ、不動産会社が売主なので仲介手数料(約100万円)がかからない。
その分、相手がプロなので指値は難しいかもしれませんが。
楽待にこんな物件が載っているなんて。
既に売れているおとり物件かもしれない。
また、何か裏があるかもしれない。
しかし、考えているだけでは何も進まない!
午前中に不動産会社に電話して問い合わせ。
スマホを持つ手が、久々の興奮で震えていた。
不動産会社との電話
千葉の売りアパートはまだ残ってますか?
はい、まだ残っております。
質問よろしいでしょうか?
現在の空室数は?
滞納者は?
老人や生活保護者は?
問題児は?
境界線は明確?
告知事項は?
その他、気にすべき点は?
(色々回答)
問題はなさそうだ。
仕事後、現地調査に行こう。
今日、19時から物件を見たいです。
分かりました。
現地でお待ちしております。
久しぶりにワクワクする物件に出会えた。
仕事中、ワクワクが止まりません。
だが、仕事しながらもある不安を抱えていた。
それは、売れてしまわないかということだ。
この中古アパートの条件はとても良い。
専業の不動産投資家がこの物件を見つけると、すぐにでも買ってしまう可能性はある。
一方、私は本業はサラリーマン。
会社を抜けるわけにはいかない。
だが、今俺にできることは売れてしまわないように祈ることしかできない。
会社にいる時間が非常に長く感じる。
俺にできることは、売れてしまわない様に祈る事だけだ。
夕方、早めに仕事を切り上げて物件へ向かった。
だが、物件に向かう途中、ある考えが頭を過ぎった。
この物件、室内に洗濯機置場を設置できるかが非常に重要だ。
建物を見るだけでなく、リフォームについて見通しが立てば具体的に検討しやすい。
いつも第1号でお世話になっている内装業者さんを現地に呼んでおこう。
一緒に室内を見て、洗濯機置場を設置できるかを確認してもらおう。
内装業者さんに電話すると、快く待ち合わせに来てくれるとのことだ。
あと、ほかにもすることがある。
売主でもある不動産会社について調べておこう。
この不動産会社は、都内で様々な物件を扱う業者だ。
投資用も居住用も、色々と扱っているようだ。
相手はプロだな。
町のおじいちゃん不動産屋とは違う。
しかも、売主だからできるだけ高く売ろうとするだろう。
指値は厳しいかもしれない。
しかし、掲載されている3,700万円では面白くない。
なんとか指値できないだろうか…。
色々考えているうちに現地に到着した。
現地に着くと、既に不動産会社の担当者と内装業者さんがすでに着いていた。
2人に挨拶して、建物の周りを見てみた。
建物は築30年ほどだが、外観は思ったよりキレイだ。
典型的な中古アパートだが、外観からは古さを感じない。
建物の敷地を一周してみたが、問題なさそう。
ネットで見たが、実際見ても問題は無さそうだ。
土地の形もキレイで広くて将来の出口として申し分ない。
周辺も住宅やアパートで、気になる施設もない。
次は、部屋を見てみよう。
今は現在空室が5部屋もある。
そして、どの部屋もリフォームはしていないという。
1階の部屋から順に見ていこう。
写真
まぁ、普通の空室って感じだな。
キッチンは使用感が残っている。
リビングは、建築時の畳のままだ。
だが、思ったよりキレイ。
もちろんこのままでは入居は決まりそうにない。
要リフォームだ。
一番重要なことを、同行してくれている内装業者さんに質問。
室内に洗濯機置場を設置できるかどうか。
既存のキッチン幅が思ったより広く(幅180cm)、幅90cmほどのコンパクトキッチンに変更すれば洗濯機置場が確保できそうだ、と。給排水管や電気配線もまず問題なさそうだ。
室内洗濯機置場さえ確保できるなら問題はクリアだ。
多少リフォーム代はかかるが、かける価値はある。
他の空室も順に順番に見てみた。
どれもリフォームが必要だが、問題は無さそうだ。
最後は2階の角部屋だ。
だが、この部屋は他の部屋とは異質だった。
扉を開けた瞬間、私は唖然とした。
写真
うおおぉ!
めちゃくちゃ汚い。
人が住めるとかいうレベルではない。
玄関は、蜘蛛の巣が張り巡らされている。
キッチンは、床も台も壁も汚れている。
床には、虫の死骸がいくつも転がっている。
なぜか換気扇の羽は取り外されている。
俺は、手でクモの巣を払いのけながら部屋に入った。
風呂場とキッチンを仕切る扉が無い。
床は虫の死骸だらけ。
とても風呂場には入れない。
リビングの畳は、シミがで汚れている。
ハエや小さい虫が飛び交っている。
そして、なぜか網戸の網が無い。
部屋の中にいるだけで、冷汗をかいてきた。
前の入居者はこんな中で生活していたのか。
虫の多さに少しビビった。
驚いて大きな声も出てしまった。
隣の部屋まで聞こえたかもしれない。
変な人がいると思われたかもしれない。
部屋の汚さに呆れていると、不動産会社の担当者が言いました。
この部屋をどうリフォームするかが、このアパート経営のキーとなると思います。
汚い部屋は大歓迎だ!
他の不動産投資家が避ける要素があればあるほど、買おうとする人は指値できる。
とはいえ、内見する人のために掃除くらいしておけよ。
掃除するだけでも、高く売れるかもしれないよ。
ボロボロの部屋を眺めながら、この物件について考えてみた。
普通の不動産投資家なら、この部屋の汚さを見ると動揺するだろうな。
人が住めるレベルじゃないし、どう手を付ければ良いか戸惑うだろう。
しかし、私はほとんど動揺していない。
虫にも少ししかビビッてません。少ししか。
ただ、この状態でもリフォームすれば見違えるようにキレイになる。
以前リフォームした第2号アパートの方が汚い。
この物件を見た他の投資家はどう思ったのだろうか。
少し突っ込んで聞いてみよう。
不動産会社との会話
この物件を内見したのは私で何人目ですか?
シンジさんで9人目です。
9人も見に来たのですか!?
その中で、今購入の手続きを進めている人はいますか?
それが、今はおりません。
融資審査を出そうとした人はいましたか?
いえ、まだ誰も審査依頼もしておりません。
なるほど。
私より前に9人も案内してるのに、具体的に進めている人がいないのか。
やはり、この部屋の室内の汚さのせいだろうな。
これでは、みんなスルーするだろうな。
せっかく立地はとても良いのに。
いや…待てよ。
もしかしたら…。
この時、俺は重大なことに気付いた。
この物件は3部屋しか埋まってない。
銀行でローン組んだとしたら、キャッシュフローはマイナスだ。
計算すると、毎月約マイナス10万円でのスタートだ。
部屋も汚い状態まま。
8部屋中5部屋で大規模なリフォームが必要だ。
買った直後に100万円以上ものリフォーム代がかかる。
これは、投資用不動産というより、むしろ再生物件。
普通の不動産投資家では買うのは難しいだろう。
しかし、ハンデが大きいほど安く買える。
空室が多く、室内が汚いことから、十分に指値の余地がある。
この物件、
指値できるかもしれない…。
しかも、かなりの差し値が。
俺の中で、指値を確信した瞬間だった。
物件調査を終えると、そのまま不動産会社の店舗に向かった。
この時点で、すでに買う決意をしていた。
不動産会社の店舗に着いて、追加の物件資料を精査。
精査していたというより、問題点の確認だ。
そして、いくらで指値するかも考えていた。
私の様子を見ていた担当者は言った。
シンジさん。
このアパートはどうしましょうか?
購入を進めますか?
来たな。
私の心は決まっている。
指値が通るなら買いだ。
だが、指値を伝える前にするべきことがある。
私が『買える投資家』だと理解してもらわなければ。
指値とは、ただ単に買いたい金額を言えばいいというものではない。
自分の不動産投資の経験を伝え、本気で検討していることを伝える。
どこから融資を受けるのかも伝え、資金の宛てがあることも理解してもらう。
そうすることで、売主は価格交渉に本気で応じてくれるのだ。
単に『安くしてくれ』と言うだけで、売主は本気で値引きに応じない。
買う意思と買う資金を売主に伝えることで、売主は指値に対する返答を本気で考えるのだ。
このアパートの購入には前向きです。
買う場合は、スルガ銀行か静岡銀行を使います。
仮審査は1~3日あれば通るでしょう。
担当者は、俺の話を真剣に聞いている。
不動産のプロとして、交渉の土俵に立っている目つきだ。
本気で買う気があることと、銀行から融資を受けれることを伝えた。
さて、ここからが本場だ。
差し値を伝えて、具体的な金額の話に入ろう。
販売価格は3700万円だ。
俺の指値は500万円としよう。
3200万円での購入意思を示そう。
だが、500万円は13%引きだ。
不動産会社が売主なら10%以上もの指値を受けないだろう。
だが、このアパートの空室と未リフォーム状態だ。
いままで見た投資家は、避けていたはずだ。
俺はそんなアパートを買うつもりでいる。
その分、差し値が通る余地は大いにある。
500万円指値して3200万円なら買います。
理由は、空室の多さとリフォーム代のためです。
社長に確認して参ります。
しばらくお待ちください。
待つこと約10分。
担当者が戻ってきました。
さぁ、どうなる!?
売主の不動産会社は、
俺の500万円の指値を受けるのか!?